1970〜80年代のハイセンスでプログレッシヴなニューヨーク派ブルーグラスは，当時の日本では伝統的なブルーグラスへの信奉のせいもあり，正当な評価を得ることができなかった。そのニューヨーク派の一つの核であり，トニー・トリシュカ，アンディ・スタットマン，ケニー・コセック，ラス・バレンバーグ，ピーター・ワーニックをはじめとする傑出したプレーヤーを擁していた真に創造的なバンドがカントリー・クッキングだった。
周知のように，トリシュカは後にスカイラインを率いてスタイリッシュなブルーグラスを聴かせ，ワーニックはティム・オブライエンらとホット・ライズで伝統的なブルーグラス・ファンをも唸らせる独特のバンド・サウンドを作り上げた。また，スタットマンは現在はクレッツマー音楽の第一人者であるし，コセックは様々なジャンルで重宝されるヴァーサタイルなヴァイオリン奏者である。
その中で影が薄くなりがちであり，派手な活動こそなかったが，そのジャズ感覚あふれるギターで心からの演奏活動をマイペースで続けてきたのがジョン・ミラーである。
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最近，彼の90年代の録音が相次いでリリースされているが，全てデュエット集というのも彼の温かい人間性を感じさせる。 まず，レベッカ・キルゴァとの "It's Easy to Remember" は，ジャズの世界でも本当に数が少ないギター伴奏のジャズ・ヴォーカル・アルバムである。 スタンダードやスウィング系を得意とするキルゴァは1948年マサチューセッツ州の生まれ。後にオレゴン州に移り，歌伴ピアノの名手デイヴ・フリッシュバーグとのデュオのほか，カントリー・バンドのベッカ・ルー，ウエスタン・スウィングのカクタス・セットアップでの活動など幅広い音楽性の持ち主である。 彼女の丁寧な歌唱とジョンの歯切れの良いリズムと絶妙のヴォイシングがとても魅力的な，上質で，かつ貴重なジャズ・ヴォーカル・アルバムだ。 |
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Rebecca Kilgore & John Miller It's Easy to Remember (ORB 1002) 1999 |
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ルーシー・ドーンフェルドとの"Noches de
Fiesta" はフィドルとギターのデュエット集。 ドーンフェルドはマット・グレイザーの"Play, Fiddle, Play" (Flying Fish FF-70555, 1990)にも名を連ねているようにバークレーでの学習者。音楽一家に生まれた彼女は，11歳のときからクラシック・ヴァイオリンを始めるが，後にダンス・チューンへと関心を移し，オールドタイム，ブルーグラス，ケルト音楽などのフィドラーとしてライヴやレコーディング・セッションを行う。 このアルバムでは，ジョンの作曲のセンスが光っている。バルカン風の"The Wedding Feast" やハワイアン風の"Singing Moon"，他にもタンゴ，シシリアーノ，ジグなど様々なダンス・チューンのモチーフによる彼の作品群の共演者としてドーンフェルドは最適のパートナーである。
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Ruthie Dornfeld &
John Miller Noches de Fiesta (ORB 1001) 1999 |
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ブルーグラス・ファンの関心を最も集めるのは，マンドリン奏者ジョン・ライシュマンとの"Singing
Moon" かもしれない。 ライシュマンの作品としても彼の端正なマンドリンがクローズアップされた秀作であり，ジョン・ミラーのギターも持ち前のタイミング感とコード感覚を十二分に聴かせてくれる。3曲が前述のドーンフェルドとの録音とダブるのだが，その曲調の変化が興味深い。共演者を活かす，彼の繊細なギター・ワークと，彼のギターにインスパイアーされた共演者との絶妙な共同作業の成果を堪能できると思う。 これだけ素晴らしいデュオ作品を聴かせてくれたのに，彼のギター一本による名作"Biding My Time"の続編を期待するのは，贅沢と言うものだろうか。
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| John Reischman & John Miller Singing Moon (Corvus CR-004) 1998 |
ジョン・ミラーはニューヨーク州北部のイサカにあるコーネル大学在学中にカントリー・クッキングにベーシストとして参加。クッキング名義の１，２作目とフランク・ウェイクフィールドのラウンダー盤に録音を残すが，ベーシストとしては目立ったプレイはしていない。
カントリー・ブルース，オールド・タイムのギター，バンジョーの名手であった彼の初期の足跡は2枚のブルー・グース盤とラウンダーへの"Let's
Go Riding"に残されている。その後の彼のショー・ミュージックへの関心はラウンダーでの２作目"Safe
Sweet Home"で開花し，ここにはガーシュインやポーター作品の見事なギター・アレンジと，彼のルーツの一つのカーター・ファミリーの曲が一枚に収められ，彼を知る上で興味深いアルバムとなっている。そして，彼がガーシュイン・ナンバーに四つに取り組んだ"Biding
My Time"は，後に楽譜も出版されたほどギター・フリークの間では話題になった作品だった。
現在は，西海岸を拠点として，彼自身のジャズ・トリオ，キャットウォークをはじめ様々なジャンルのプレーヤーとの演奏活動を続けている。
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| John Miller Let's Go Riding (Rounder 3002) 1975 |
John Miller Safe Sweet Home (Rounder 3016) 1977 |
John Miller Binding My Time (Rounder 3034) 1979 |
