John Cowan "John Cowan"
　The Sky Kings "From Out of the Blue"

　前作のR&Bを基調とした"Soul'd Out"に，ニュー・グラス・リヴァイヴァル時代のジョン・コーワンを期待して落胆し，1998年のテルライド・ブルーグラス・フェスティヴァルの記録"Alive at Twenty-Five"でのジョン・コーワン・バンドの演奏に再び拍手を送ったブルーグラス・ファンも多いのではないだろうか。
　
　もともと，ニュー・グラス・リヴァイヴァルはジョン・コーワンの加入によって，ソウルフルな要素を持ち込み，ヴォーカルとコーラス・ワークにますます磨きをかけていった超一級のブルーグラス・バンドであった。それまでの伝統的なブルーグラスに対し，ロック，フォーク，ジャズなどの要素を取り入れた新しい感覚のブルーグラスであるニュー・グラスを若者たちの間に流行させた象徴的なバンドでもあった。

　プライヴェート盤としてテルライドで先に出回っていたこの"John Cowan"であるが，特筆すべきはプロデューサーとしてのウェンディ・ウォルドマンの存在である。
　ウェンディ・ウォルドマンとジョン・コーワンとの出会いは1988年のニュー・グラス・リヴァイヴァルのラスト作"Friday Night in America" (Capitol C1-90739)のレコーディングであり，ウェンディはこの時のプロデューサーとして起用されていた。
　その後，1966年のストローベリー・フェスティヴァルに，ウェンディがカーラ・ボノフ，ケニー・エドワーズらと組んだブリンドルとサム・ブッシュ＆フレンズが出演したことが契機となってウェンディとジョンとのソング・ライティングの共作活動が始まる。彼女は彼の才能を高く評価し，彼のレコーディングのプロデュースを快諾。その二人の成果がこのCDである。

　ウェンディが自身のプロデュースによる最高作と語るこの作品は，彼女が，ジョン・コーワンという一人のミュージシャンの個性と持ち味を時間をかけて最大限に引き出し，彼の幅広い音楽性を余すところなく一枚のCDにまとめあげた傑作であり，同時にプロデューサーとしての彼女の才能を再認識させられものである。また，ニュー・グラス・リヴァイヴァルの解散後，焦点の定まらぬように思えたジョンの音楽であったが，その着地点を見事に設定したのが彼女であり，ジョンは彼の音楽の最高の理解者を得たのだと思う。

　"Alive at Twenty-Five"にも収められていた"This River"と"I Want You to"の彼らしい歌いっぷりの他，"Roll Away the Stone", "My Heart Will Follow You"そして"Last Summer Rose"が出色の出来で，ソング・ライターとしての彼の魅力を堪能させる。
　レコーディングには，ブルーグラス・プレイヤーからはサム・ブッシュ，ダレル・スコット，バーバラ・ラム，スコット・ヴェスタルなどおなじみの名前が並ぶが，ウォルドマン，ボノフ，エドワーズにスコット・バブコックというブリンドルのメンバーが揃って参加しているこのCDが，今後どのような人脈を作っていくのか興味の尽きない一枚である。

　ニューグラス・リヴァイヴァル解散後のジョン・コーワンがフォスター＆ロイドのビル・ロイドとポコのラスティ・ヤングと結成していたスカイ・キングスの未発表録音がリリースされた。
　CD2枚分の曲を録音し，ジャケット写真まで用意されながらも，これまでに発表されたのはCDシングルとオムニバス収録の計5曲のみ。この幻のスーパー・バンドの全容が収められた貴重な一枚である。

　ポコの解散後，ラスティ・ヤングは一時期ヴィンス・ギルのバンドに在籍していたが，1988年にロイド＆フォスターとのジョイント・ライヴでビル・ロイドと出会い二人は互いにファンとなった。1990年にロイド＆フォスターを解散したロイドは，丁度ポコのリユニオン・ツアーを終えたヤングとアルバム制作を企画する中で，ロイドの友人だったジョン・コーワンに声をかけることとなる。
　スカイ・キングスと名乗ったこのバンドは，ドゥービー・ブラザーズとのツアーや，曲作り，レコーディングと精力的に活動を続けたが，商業的な成功には結びつかず，1997年に解散した。

　まさに蔵の中から捜し出されたこれらの録音であるが，ナッシュヴィル・サウンドに比して，ずっとソリッドで力強いカントリー・ロックであり，かなり凝ったアレンジを聴かせる。3人ともが作曲しリード・ヴォーカルを担当しており，各人が自身を表現するユニットとして力の入った活動をしていたことを窺わせる。
　これらのレコーディングにもアル・クーパー，レオン・ラッセル，パトリック・シモンズなど錚々たるミュージシャンが名を連ねているのも，そんな意気込みの現れであろう。
　中でもニューグラス・リヴァイヴァル時代のジョン・コーワンのパートナー，サム・ブッシュが10曲に参加しており，この二人が揃うと，どんなアンサンブルの中でもあのニューグラスの香が漂ってくる。