ハゥイー・ターナワーの名は，熱心なブルーグラス・ファンと言えど、覚えている人はそう多くはないだろう。 
　Ａｌａｎ Senauke とともにThe Fiction Brothersと名乗り，70年代にフライング・フィッシュ・レーベルから出された，"Country Cooking with the Fiction Brothers" と" Things Are Coming My Way/Fiction Brothers"  が，彼のプレイを聴ける主要な録音だったと思う。
　前者はPeter Wernick と Nondi Leonardらと，後者は，Marty Cutler,，Tony Trischka，Evan Stover，Kenny Kosek，Jon Sholle などNY派と共演した傑作で、ブルーグラス、オールドタイム、フォークが一体となった演奏の数々は、次の時代のブルーグラスを予見させるものだった。が，当時の教条主義的な日本のブルーグラス・ファンの間では、ほとんど話題とはならなかった。

　他には，セッション・マンとして多数のアルバムに参加をしており，Ｔ. Trischka，M. Glaser，M. Cutler のソロ・アルバムにも顔を見せていたし，また，ボストン・フォーク・シーンのFred Small， Bob Frankeなどのアルバムでも，ちょっとブルーグラスっぽい曲に華を添えていた。そのトラディショナルでありながらモダーンなセンスを兼ね備えたマンﾄﾞリンは，いずれの録音でも実に印象的だった。 

　そんな彼の近況を伝える一枚のうれしいＣＤが届いた。 彼のマンドリンの音色やタイミングと歌声は昔のままだ。しかも，フィドルはMatt Glaserではないか。さらに，故Joe Val が率いたNew England Boys のベーシストEric Levevenson も名を連ね，ボストン・グラスの濃密な地縁を感じさせる。

　ハゥイーの音楽歴からの選曲を中心に，メンバーの持ち寄り曲が混じり，アルバムとしての統一感はいまひとつであるが，ライヴ・ハウスでの演奏活動がメインなのだな，と思わせる飽きさせない内容のアルバムとなっている。
　 しかし，それぞれのプレイは一級品で真摯，手抜きはない。ハゥイーにとっては，デルモア・ブラザーズをレイドバックした感覚が好きなんだろう。それを，こんなに感じさせる人はいないと思う。現在は，ボストン界隈で，数々のセッション・ワークとともに，学校や楽器屋でマンドリンを教えているとか。

　アメリカ東海岸のブルーグラスの底力と信念が伝わってきて，元気をもらう一枚である。ただし、自主製作盤で入手は少し難しいかもしれない。