カリフォルニアのベテラン・アコースティック・アンサンブル，キャッシュ・ヴァリー・ドリフターズの久々の新作で，四半世紀に及ぶ彼らの活動歴の中での第5作目になる。
　前作の"White Room"はクリームのカヴァー・ヴァージョンで話題になり，また全曲にバンジョーを取り入れるなどアレンジ面でも変化があったが，それに比べるとこの新作は多少地味な感は否めない。
　この腕達者なバンドの持ち味は，ブルーグラス風のビートに乗った軽やかで爽やかなハーモニーの曲と，スウィング・ナンバーの洒落たアコースティク演奏を2本の柱としていた。
　このアルバムでは，その内のスウィング・ナンバーが姿を消し，自作曲を含めシンガー＆ソングライター系の曲を中心に，以前にも増して凝ったアレンジとコーラス・ワークに焦点が当てられている。ホイト・アクストンの佳作"Evangelina"，イーグルスの"Hollywood Waltz"，レオン・ラッセルの"Delta Lady"，そして一時期彼らがバック・バンドを務めていたケイト・ウルフの"Eyes of Painter"などリラクゼーションを漂わせながらも，ベテランらしいタイトで要所を押さえた好演の数々が収められている。

　3人編成となったキャッシュ・ヴァリー・ドリフターズのメンバーだが，マンドリンのビル・グリフィンは結成翌年の1973年から参加した実質上のリーダー。ベースのウォリー・バーニックは1975年から79年まで在籍し1作目の録音に参加していたが，前作から再加入。ギターのマイク･マリングは，1作から3作目までのギタリストであったサイラス・クラークが結成したAcousticatsのマンドリン弾きで，バーニック同様前作から参加している。一方，デヴュー以来のギタリストで前作ではバンジョーに転じていたデイヴィッド・ウェストが今回は参加していない。その穴を埋めているのは，フィドル，バンジョー，ドブロでゲスト参加しているデニス・キャプリンガーである。彼はバーニックの友人で，ともにBluegrass Etc.で活躍していた仲であり，カリフォルニアの気心の知れた仲間が入れ替わり協力しながらキャッシュ・ヴァリー・ドリフターズのサウンドを維持しつづけている。

　バンド自身のレーベルMighty Fine Recordsを設立し，第1作のタイトルが"mightyfine.net"，レコード番号はV1.0とはちょっとしたシャレであろう。キャッシュ・ヴァリー・ドリフターズの安定したテクニックと外連味のないアンサンブルは健在であり，また変わらぬ新鮮さを感じさせる。